2017年 02月 24日
桃源遥かなり |
陳舜臣全集第二十三巻
陳舜臣
講談社 昭和63年
これわ面白い。
方壷園
というのは随分昔に読んだことがあったようです。面白い建物、というか建物の残骸が再利用されている姿が記憶から浮かび上がってきましたが、推理小説のプロットなどは忘れていました。
桃源遥かなり
韓国麗水では漁船の新造下ろしに出くわしたこともありましたが、海の祝い事というのは東アジアに共通する雰囲気があります。
こうした船方さんが、どのような暮らしをしているのかに興味があったのですが、その理解の一助になるのが本作です。殺人事件を書かねばならないのは「推理小説」という作法に則っただけで、それを読みい人もいるでしょうが、陳舜臣は事件に至るまでの背景を丁寧に書き込んでいます。
九雷渓
日中戦争の頃に地方を巡業する劇団の様子は「桃花流水」にもチラリと出てきましたが、最近見たのは「紫色大稻埕」の石銘劇團です。「金色夜叉」の成功にもかかわらず、総督府の迫害で石銘君は廈門で抗日戦線に参加するのですが、終戦後台湾に戻り、おそらくは2.28に巻き込まれていくのでしょう。
陳舜臣の推理小説は、筋書きとしてはウィキペディアにある程度の史実を、元が歴史家ですから若干の詳細を足し、情景描写を書き加えて読者の眼前に歴史上の情景が目に見えるものにし、「実はこうだったかもしれない。」という作者の想像を加えたもので、書きたいものは歴史なのですね。
中華民国政府軍事委員会調査統計局というのは、最近活躍している朝鮮民主主義人民共和国のナンタラみたいな組織で、やることは楊貴妃が馬嵬駅で死ぬまでの筋書きと似たようなものでしょう。
170225
ヒマラヤンクラブ
復員兵の話だ。先年は尖閣列島を警備していた巡視船に突っ込んできた漁船の船長さんが「英雄の帰郷」でもてはやされていたが、しばらくすれば人々にも忘れられ、元の木阿弥だろう。手元には
The Solidier’s Return
Mervyn Bragg
Sceptre 1999
というのもある。西部鉄道の旅の徒然にと、ビクトリア駅のWHSmithで買ったのだが、何のことはない、ブリストルに着くまで小学生よろしく窓ガラスに顔を押し当てていたので、読めなかった。帰ってから寝床で読み始めたのだが、英国の湿った寒気みたいで読むのをやめてしまった。主人公はビルマの湿った熱気から英雄として帰国すると、ただの失業者だ。
サンフランシスコに行った時には高速を降りると、ヘルスエンジェルスとパトカーが追いかけっこをやっていた。あれは8th AFのB17のヘッドマークで、失業した復員兵が始めたのだそうだ。
ヒマラヤンクラブは丸の内にあった復員兵の親睦団体の話だ。東京の貿易会社というと聞こえはいいが、ヒマラヤ越えの蒋援ルートの飛行機乗りが、戦後行くあてもなく東京オリンピックの頃の丸の内に集まってダイヤの密輸をやっていた、というのが事件の背景になっている。
戦争とはつまり、若者を煽って殺し合いをさせる金儲けで、麻薬なども営業品目に入っている。金さえ入ればどっちが勝とうがどーでも良い、というのを描いたのが
黄皙暎
岩波書店 1989
by dehoudai
| 2017-02-24 10:49
| ほん
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