2012年 05月 17日
夕空 |
笠松紫浪
渡邊木版美術画鯆 昭和8年
昭和8年刊だが、絵には昭和7年秋とある。同年3月満州国建国。家尊は翌8年10月に税務官吏として勇躍渡満している。
「銃後の護り」というわけであろう、子供を背負った女の足取りは、意外にしっかりしている。
世界大恐慌とともに日本の財政赤字はお手上げ状態となり、「満蒙は日本の生命線」と、軍部を先頭に日本全体が泥沼にはまりこん込んで行く。「赤い夕陽」を見上げる事無く、うつむいて足下を見ながら歩く人の姿が増えた時代だろうか。笠松は石段の落ち葉を丁寧に書き込んでいる。
「刷り物」の素晴らしいところは、作家個人の思いで成り立つ肉筆画と違い、世の中に受け入れられるかどうかに掛かっている点だ。80余年後の私の視線が、昭和8年の日本人の視線に重ね合わされる。後刷であればこそ、当時の人々が見たのと同じ色合いの、遠い満州の空を思わせる、日暮里諏訪神社の夕空が拡がる。
1929
巴水の絵
by dehoudai
| 2012-05-17 17:39
| ほん
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