2011年 06月 14日
ダルシム様 |
ダルシム(兄)は天竺の山奥で修行を積んだ後、1,400年近く前に日本へ托鉢にやって来て、時の政府から「国営製鉄所の警備隊長をやってくれないか。」と頼まれた。格闘技で生計を立てるのは本意ではなかったが、「これも仏法を知らない人々に、仏の教えを広めるためなのだから、是非。」と頼まれて、結局引き受けることにした。国営製鉄所では武器も作るのだが、そっちは少し離れたところにある刀工の鍛冶場で作るのであって、製鉄所では鋳物の鐘など、仏具を作るのが主だった。
ダルシム(兄)は製鉄所に人々だけでなく、近くの村人にも愛され、製鉄所にあるお寺で偉いお坊さんについて、仏教の修行も積むことができた。
ダルシム(兄)のたった一つの悩みは、言葉だった。天竺からきた彼は、都の言葉も村人の言葉も、どうにか解るのだが、話そうと思うとどうしてもアクセントが変なのだ。村人はそれでも「ダルシムさんは天竺からきたのだから、村の言葉はちゃんとしゃべれなくたって仕方がない。」と大目に見てくれるのだが、製鉄所の人々、特に都からやって来たばかりの偉い人たちは、都が恋しい所為もあってか、ダルシム(兄)の訛りがおかしいと言って、からかうのであった。
あるときダルシム(兄)はついに新任の製鉄所長とけんかをして、製鉄所を飛び出してしまった。ダルシム(兄)は仕方なく裏山に分け入ると、小さな家を造ってそこに住むことにした。手を伸ばせば海の貝が採れるので、一人でひっそりと暮らしていた。
村人たちはそんなダルシム(兄)を見ると、かわいそうに思い、とれたばかりの野菜を届けてくれた。新任の製鉄所長は知らないのだが、村人たちはその昔、北から仏法を知らない人々が、都から来た人たちを追い出そうとして攻めて来たとき、たった一人でこれを防いだことを忘れてはいなかったのだ。
ダルシム(兄)は白い鹿と黒い狼にも慕われ、山の中で幸せな老後を送ることができた。やがてダルシム(兄)が年老いて死ぬと、村人たちは彼を慕ってほこらを作り「ダルシム様」と呼んで大切に彼を祀ることにした。
今でも村を見下ろす丘の上には「ダルシム様」のほこらが祀られている。
by dehoudai
| 2011-06-14 16:24
| きせつ
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