2017年 09月 13日
日本風景論 |
志賀重昂著
明治27年10月27日
東京政教社 発行
日本風景論解題
志賀富士男
山崎安治
猪瀬直樹
昭和54年1月31日
飯塚書房 発行
ちょっと興味があったのは、母方の祖母は明治10年代の生まれではないかと思うが、彼女にとっての日本地理というのは、浜松周辺と東京、あちこちの温泉だけだった。歌舞伎が好きで、母を連れて歌舞伎見物に出かけ、震災前の日本橋の河岸で寿司を食べたことがあるそうだ。
本書はそうした時代の啓蒙書かと思うと、少し趣が違う。
著者は岡崎藩の人、佐幕派で西国の藩閥政治に嫌気がさしていた。海外雄飛ということで先ず海軍予備校で英語を習う。東京帝国大学は嫌だということで、北海道大学に入るが、ここも「国家枢要の人材を養成、、」ということでお気に召さず。明治17年卒業、長野県中学に奉職するも、気にくわず脱走。
明治19年予備校のつてをたぐって海軍兵学校練習船筑波に便乗し、南洋を巡り一書「南洋時事」を著す。米西戦争前のこととて、スペインなどの植民地を見たのだろう。ここで「白皙人の植民地になってはいけない。」と肝に命ずる。
この辺りが明治21年4月、三宅雪嶺らと「日本人」を創立、国粋主義を大いに吹呼した着想の元だろう。詩人を自認しており「日本風景論」も詠嘆調・漢文調の文学に若干の自然科学を加味したものだ。
その後のスペイン領はどうなったかというに、米西戦争に米国が勝ったために引き渡され、核兵器の実験場となる。目の前には海が広がるが、そこで魚を獲るのは日本の船しかいないので、原住民族は軍作業しか生きる途がなくなる。いくら魚が食いたくても、食って良いものはハンバーガーとフライドポテトだ。かくて世界の国別成人糖尿病ランキングの上位を独占することになる。
「日本風景論」の出版が明治27年10月27日であり、朝鮮を巡って日清戦争が勃発した折なので、出るや否や飛ぶように売れたらしい。
日清戦争に勝った結果、日本自身が台湾の宗主国になると「今や日本は一等国である」ということになり、数年前までの「白皙人の植民地になってはいけない。」という本書の国粋主義は吹き飛んでしまった。日本の国粋は至尊だが、支那の国粋には価値を認めないという夜郎自大の風潮に著者も流されてしまったのだ。
どうも徒党というのはロクなものではない。水戸天狗党の武田耕雲斎も「神国日本を汚されないためには英語学習が必要。」と言っていたのに、徒党は聞く耳を持たず、井伊直弼を殺してしまう。耕雲斎も徒党に担がれたまま筑波山に立て籠り、大砲を引いたまま加賀まで落ち延びて縛につくことになる。
熊野神倉神社ゴトビキ岩など、現場まで訪ねて行ったのだが、あまりの奇観に写真を撮るのを忘れて帰って来てしまった。人と会って話をしていると、そっちに気を取られて食ったものの写真を忘れてしまうのと同じだ。帰りがけに気がついたが、一段50cmという段を割れかけた膝で戻るのは危険なので諦めた。
NHKスペシャル
列島誕生 ジオ・ジャパン 第2集「奇跡の島は山国となった」
日清戦争までは「白皙人の植民地になってはいけない。」と言っていたものが、日清戦争を境に日本人は戦争ダイスキになってしまった。武士道の真髄が「葉隠」国粋の真髄が「平和」だったことなど忘れ果てて、今では米国の植民地に安住している。落ちたものだ。
豊葦原瑞穂国には未だに米国の直轄植民地があり、事故だの犯罪だのCV22だのが大手を振ってまかり通るのだが、占領軍の尻馬に乗って住民を土人呼ばわりし、戦跡地を瀆す者までいるという。こうした行いが「美しい」やら、国粋党の諸君はいかがお考えか。
by dehoudai
| 2017-09-13 08:12
| ほん
|
Comments(4)
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twtrf2 at 2017-09-14 21:04
熊楠が英国遊学中に孫文と会った時、『何が肝要か?。』と問われて、『アジアから西洋がなくなること。』と応えたとか。
って、明治の頃には本質を見通していた人らがおったのに、その後がいかんのですよね。
今の半島情勢も18世紀からなぁ~んにも変わっっとらんちゅ~ことですかね。
ってゆぅか、メンドイ度合いはさらに深まるばっか。
って、明治の頃には本質を見通していた人らがおったのに、その後がいかんのですよね。
今の半島情勢も18世紀からなぁ~んにも変わっっとらんちゅ~ことですかね。
ってゆぅか、メンドイ度合いはさらに深まるばっか。
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dehoudai at 2017-09-16 09:08
植民地土民軍の首魁が非立憲内閣で暴れておるので、ここはひとつ自由民権運動、ということで。
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twtrf2 at 2017-09-16 20:11
Revise,
18世紀じゃのぉて、19世紀の間違いだでかんかった。
18世紀じゃのぉて、19世紀の間違いだでかんかった。
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dehoudai at 2017-09-20 15:05
韓国悲劇は日本による領有への反動から「王朝時代は良かった」ということで18世紀の社会組織の近代化が徹底しなかったことではないでしょうか。