2015年 10月 02日
K-3520 |
仕事場で使っている便器はKohler Woolworth K-3520というものだ。
便器のボウル部分は機能上、一体型陶器でなければならない。この部分だけなら、何百年ももつだろう。タンクも同様に一体型陶器であれば、寿命の早いのは接合部品とフラッシュバルブ・給水バルブだ。1936年には一体型陶器の寿命に合わせて、調整すれば100年以上使える、と設計されていたであろうフラッシュバルブ・給水バルブだが、今ではバルブが壊れたから全体をお取替え、となりかねない。
これは1986年に節水消音など、細部のデザインを改良したものだが、元のWellworthは、1936年に発表されたリヴァーストラップ式サイホンゼット便器の記念碑的製品だそうだ。 メーカーのウェブページにはこの年
・フーヴァーダム完成
・ライフ誌創刊
・ルーズベルト大統領再選
・ベルリンオリンピックで水泳のオウエンス4冠
とあり、米国ではナチスの台頭とともに、ヨーロッパから人材と資本の流入が増え、世界大恐慌後、世界最大の工業国に昇り詰めよう、という時代の香りがする。
日本では第一次世界大戦時の好景気が去ると、関東大震災によって国家中枢部がPTSDに陥り、それを「大和魂」で乗り切ろう、という精神論が叫ばれるが、財政赤字への歯止めはなく、ホルムズ海峡ならぬ「満蒙は日本の生命線」ということになって、米国諜報機関に煽られた軍部は、真珠湾攻撃の罠に嵌っていった。
1986年型では、給水バルブのフロートがビニール製に変わったのだが、それまでは銅の薄板を半球形にプレスしたものを、二つつないでフロートにしていた。水洗装置の原理をそのまま形にしたような、解りやすいものだ。
ところが設置後25年を経過して、給水バルブが緩んできたらしく、わずかながら漏水が始まった。昼間は気付かないが、夜中に受水槽のポンプが間欠的に回っている。 よく見ると給水バルブの頂部に、調整用のネジがついているではないか。バルブの緩んだ分を締めてやると漏水は治まった。25年で緩んだのだから、あと1−2回締めてやれば、50年以上使えるだろう。 ところがメーカーは「製品は予告なく改良します。」という免責条項通り、今からこの給水バルブを入手することはできない。現在手に入る代替部品は、調整のきかない、フロート内蔵型の、ビニールの筒状のバルブだ。性能が良くなった代わりに、漏れたらフロートバルブ全体をお取替えだ。
1936年当時の米国には「無限の未来」が広がっていて、製造技術も未来の実現だっただろう。それが今ではバルブが壊れたから全体をお取替えとしなければ、企業利益が維持できない。技術が企業利益に埋もれていくのは、現今のスマホも似たようなものだ。
日本の各社はさらに一歩進んで、ボウルの内面と外面を剥がし、外側をプラスチックにすることで、10年か20年で薄汚くなり、取替えたくなる便器をせっせと開発している。
ヴェルサイユ宮には便所がないが、パリの上水道の取入れ口上流には、上流都市の下水道の排水口があり、現今の淀川流域と違い、大した処理も行わずに垂れ流しだったので、あまりきれいなものではなかった。
原理主義の某君は、水洗便所は高野山の川屋には残るものの、千利休の時代以前の技術で、その頃取り入れられた、し尿のリサイクルによって、農業生産は飛躍的に伸びた。捨ててはいかん。というわけで、自宅にくみ取り便所を備え、畑へ肥タゴを担いで通っていたが、娘どもが初潮の頃に猛反発を食らって、水洗便所を増築しなければならなかった。技術の逆行だと嘆いている。
by dehoudai
| 2015-10-02 13:01
| まちづくり
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