2012年 05月 16日
ベトナムのラストエンペラー |
ベトナムのラストエンペラー
ファム・カク・ホエ/白石昌也訳
平凡社1995
1945年3月9日仏印に進駐していた大日本帝國は阮氏大南國を仏領印度支那から「独立」させる。そして8月15日にはその大日本帝國が「英米支蘇」に降伏してしまう。筆者はその折の御前文庫総理つまり宮中官房長官だが「酒色麻雀」で骨抜きの皇帝に愛想を尽かし、退位して國を河内の阮愛國こと胡志明つまり伯胡率いる越南獨立同盟會に委ねる工作を宮中で始める。
大南国保大皇帝は退位し、9月2日共和社會主義越南が成立、筆者は伯胡の下で仏蘭西國との停戦交渉を行なう。という訳なんだが、紀元前7世紀というから、日本紀元と同じ頃に文郎國として立國し、秦始皇帝の軍隊にも辺境であるが故に滅びる事無く、歴代皇帝に朝貢し、冊封され、封建の苦しみに耐え抜いて来た越南が、西部劇のノリで、空爆しまくれば手を上げるだろうという、建国200年の米國に負ける訳が無いと言うのが良く分かる一書だ。
しみじみ思うのは、漢字仮名交じり文の有難味。ヒエログリフの昔から表意文字と表音文字を組み合わせる、という試みは幾多もあろうが、日本に於ける漢字仮名交じり文程、成功した試しは無かろう。中华人民共和国では、黄河流域の学者が简体中文を強要した為に、長江文化は滅びつつある。韓国朝鮮では「独立」とともにそれまであった漢字仮名交じり文を廃してしまった。越南では仏蘭西が持ち込んだ仮名が、真名を滅ぼしてしまったので、本書著者の真名さえ分からない。陸続きの朝貢国に較べると「東方海中の蓬萊島」は有難い。
浜松市図書館所蔵の本書にはあちこち傍線、というより鉛筆を力任せになすり付けて黒くしるしをしてある。仕方無く消しゴムでそれをきれいにしながら読んでいるのだが、しるしをした人の興味の対象が分かって面白い。私の興味は「国家の崩壊」ーどのような国が崩壊し、どのような国がそうはならないか、地上最大の軍事力を誇る米国が、何故東アジアの小国に勝てなかったのか、という点なのだが、鉛筆を黒々となすり付けた人は、そんな事はどうでも良く「王様・王女様・大臣・将軍」などがきらきらと動き回る「王朝絵巻」として読んでいた様だ。本屋が付けた「ラストエンペラー」という書名に惹かれたのだろう。
ちょうどNHKの大河ドラマと同じ様なもので、どのような国が崩壊するのか、よりもこちらの方が日本人の平均的知性に合っているのだ。第二次世界大戦後の日本における民主主義も、同じ様なもので「冷戦構造」という舞台装置が無くなってしまうと、行き場を失ってしまう。米国が越南に勝てなかったのは軍事力ではなく、紀元前7世紀以来、試練に耐えて作り出された国民性に負けたのであって「王様・王女様・大臣・将軍」に負けた訳ではない。
越南と同じく紀元前7世紀の建国と伝える日本では、大陸からの軍事圧力といっても元寇ぐらいであって、天変地異がこの国の国民性を形作る試練だった。日本人が「政治」とか「国家」に疎くて、国際水準からすれば幼稚園ゴッコみたいな事を繰り返すのはその所為だろう。
ゴーマニズム
アンディン宮公開
風の国
武器の影
サイゴンの火焔樹
ファム・カク・ホエ/白石昌也訳
平凡社1995
1945年3月9日仏印に進駐していた大日本帝國は阮氏大南國を仏領印度支那から「独立」させる。そして8月15日にはその大日本帝國が「英米支蘇」に降伏してしまう。筆者はその折の御前文庫総理つまり宮中官房長官だが「酒色麻雀」で骨抜きの皇帝に愛想を尽かし、退位して國を河内の阮愛國こと胡志明つまり伯胡率いる越南獨立同盟會に委ねる工作を宮中で始める。
大南国保大皇帝は退位し、9月2日共和社會主義越南が成立、筆者は伯胡の下で仏蘭西國との停戦交渉を行なう。という訳なんだが、紀元前7世紀というから、日本紀元と同じ頃に文郎國として立國し、秦始皇帝の軍隊にも辺境であるが故に滅びる事無く、歴代皇帝に朝貢し、冊封され、封建の苦しみに耐え抜いて来た越南が、西部劇のノリで、空爆しまくれば手を上げるだろうという、建国200年の米國に負ける訳が無いと言うのが良く分かる一書だ。
しみじみ思うのは、漢字仮名交じり文の有難味。ヒエログリフの昔から表意文字と表音文字を組み合わせる、という試みは幾多もあろうが、日本に於ける漢字仮名交じり文程、成功した試しは無かろう。中华人民共和国では、黄河流域の学者が简体中文を強要した為に、長江文化は滅びつつある。韓国朝鮮では「独立」とともにそれまであった漢字仮名交じり文を廃してしまった。越南では仏蘭西が持ち込んだ仮名が、真名を滅ぼしてしまったので、本書著者の真名さえ分からない。陸続きの朝貢国に較べると「東方海中の蓬萊島」は有難い。
浜松市図書館所蔵の本書にはあちこち傍線、というより鉛筆を力任せになすり付けて黒くしるしをしてある。仕方無く消しゴムでそれをきれいにしながら読んでいるのだが、しるしをした人の興味の対象が分かって面白い。私の興味は「国家の崩壊」ーどのような国が崩壊し、どのような国がそうはならないか、地上最大の軍事力を誇る米国が、何故東アジアの小国に勝てなかったのか、という点なのだが、鉛筆を黒々となすり付けた人は、そんな事はどうでも良く「王様・王女様・大臣・将軍」などがきらきらと動き回る「王朝絵巻」として読んでいた様だ。本屋が付けた「ラストエンペラー」という書名に惹かれたのだろう。
ちょうどNHKの大河ドラマと同じ様なもので、どのような国が崩壊するのか、よりもこちらの方が日本人の平均的知性に合っているのだ。第二次世界大戦後の日本における民主主義も、同じ様なもので「冷戦構造」という舞台装置が無くなってしまうと、行き場を失ってしまう。米国が越南に勝てなかったのは軍事力ではなく、紀元前7世紀以来、試練に耐えて作り出された国民性に負けたのであって「王様・王女様・大臣・将軍」に負けた訳ではない。
越南と同じく紀元前7世紀の建国と伝える日本では、大陸からの軍事圧力といっても元寇ぐらいであって、天変地異がこの国の国民性を形作る試練だった。日本人が「政治」とか「国家」に疎くて、国際水準からすれば幼稚園ゴッコみたいな事を繰り返すのはその所為だろう。
ゴーマニズム
アンディン宮公開
風の国
武器の影
サイゴンの火焔樹
by dehoudai
| 2012-05-16 11:52
| ほん
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