仁寺洞でじいさんの冠を手に入れたので、これを被って閔丙玉君の家を尋ねんとしているところである。昔の偉い人の家は、ちゃんとした格好をしていないと入れてくれそうも無いので、ちゃんと準備をしたのである。しかし今は食堂をやっていて、入ると金がかかりそうなのでヤメにした。
このテの冠は学者などが被っていたものではなかろうか。学者と言っても科挙の勉強をして、役人になるのが目的なので、学者と称して一生受験生みたいな人々も居たであろう。閔丙玉君の家はともかく、これを被って国立中央図書館へ行くのが次の目的地だ。国立中央図書館は北村の突き当たりにある、ということで、韓国儒教の「本家」か「元祖」か「家元」に相応しい立地ではないか。
ところが山を登って行くと、朴正煕(旧名高木正雄)君の頃にでも作ったのであろうか、士官学校の様な建物には「チョンドク図書館」とあり、国立中央図書館は江南なのだという。資料が誤りなのか、移転したのかは不明。地下鉄で江南に向う。ところがこの江南の地というのが、歩行者に取っては「人外魔境」とも言うべき恐ろしいところであった。
伝説に出て来る人外魔境では、山姥なぞが迷い込んだ旅人をたぶらかして、旅人鍋などにして食べてしまうのだが、京城江南の地では街の作りが「3ナンバーの自家用車に乗らざる者、人にあらず。」というルールなので、徒歩で目的地に達しようとする旅人に取っては命懸けの地なのだ。山姥が人外なのではなく、こちらが人外なのだから、文句の付けようが無い。
国立中央図書館は「高速ポストーミノル」と言う、田舎から人外が出て来て、地下鉄やらで散って行く駅の近くにあるのだが、ここから図書館にたどり着くのが一仕事であった。駅の案内板には「3号出口」とあるのだが、地下街をどこまで歩いてもそんな出口は無い。とにかく周りの見えない地下街というのは、地理に不案内なものに取っては愉快な場所ではない。もう「3号出口」はどうでも良いので、外に上がり、「国立中央図書館」という矢印に従い、時速80kmで車が疾走する十数車線の大通りを歩道橋で渡り、最後は交差点で汗を垂らして信号待ちをする人外どもに、道を聞いて図書館にたどり着いたのであった。人外どもが外人には結構親切であったのは、「受験生の冠」のおかげかもしれない。
後ろを見てもどこが「高速ポストーミノル」なのか見当がつかぬが、何とかなるであろう。
一番奥が「国立中央図書館」なのである。
「国立中央図書館」は韓国儒教の「家元」だか「元祖」だか「本家」に相応しい建物でなくてはならないので、やたらに聳えまくっているのであった。
徳寿宮